幻の巨鯨

俺の村は、捕鯨をする漁師村。おっとーは巨鯨ぽせいどんの鼻を切ろうとして、潮にのまれて死んだ。おっかーは、貧しい卒塔婆を見守るために、墓の見える岬の家から出ねぇ。俺は鯨取りとして、頭に仕え、技を研き、大人並の腕を持つまでに育った。しかし、貧乏。おっかーに、食わせる米も与えられねぇ。ある日、長者どんに呼ばれて、屋敷に行った。そなたも、最早、成長し、元服の年齢じゃのう。しかし、元服は侍、長者クラスのもののみじゃ、しかし、励めよ!貴様には期待しておるぞ!ありがとうこざいます。帰った。一体なんの為の呼び出し?見下してるだけ。長者の家の溝には、米が流れているらしい。おっかーに!止めよう、惨めすぎる、俺は物乞いでは無い。おっかーも喜ばん。  シマ!来たぞ!ぽせいどんが!お前は、おっとーの仇をとる時がきた!村の衆がゆー!行くぞ!しかし、ぽせいどんは子鯨を連れている。村のもんは、ぽせいどんは無理だと思い、子鯨のみを捕鯨した。長者どんの庭に、子鯨を据え、村人達が、銛を打込みながら酒を呑みどんちゃん騒ぎ。子鯨の体には銛がつきたちまくり!酷い!俺は思った。しかし、俺も村人、子鯨の銛を見て、おっかーの待つ家に帰った。おっかーは俺の帰りを待ちしゃぶしゃぶの芋ゆでがゆを炊いて炉端で事切れていた。おっかー!俺は思った!子を失ったぽせいどん、おっかーを失った俺の気持ち、誰にも分かるまい!俺は舟で沖合いにでた、途中おっかーの家の、芋煮を炊こうとした煙がみえた、おっかー!すまない!卒塔婆も作れない!ぽせいどんに、問いかけた!お前とあの水平線の向こうに!ぽせいどんは、俺を背中に、俺は背びれに掴まった。すると、ぽせいどんは、俺の村を、大尾びれで一ナギに流してしまった。後には誰も居ない。村も、人も、墓も卒塔婆も、何も無い。ぽせいどんよ!あの水平線の向こうに、何か幸せがあるのかも知れない!それまではシマイドンとして、旅を続けよう!ぽせいどんには、俺の気持ちが伝わったのだろうか?子を亡くした母と母を亡くした俺の気持ちが、伝わり合った様な気がする。では、いざ、太平洋の向こうの水平線を越えに旅に!私とぽせいどんは、暫くシマイドンとして、共生生命体として、この果てしなき海原を旅することとなった。しかし、消えた、村の人々よ。己の奢り昂りを悔いて成仏せーよ!責めて、俺からの言葉だ、俺自身?何も感じ無い、感じる材料も無い!行こう、ぽせいどん!