もはや、目標としていた800歳は越えている、だが、マスターヨーダの様には消えていない。薄いあかね色の紫の惑星に居る。いつ見ても綺麗な大地と空が見える。夜になると、あまねく銀河、星ぼしがみえる。朝焼け、夕焼けは何度見ても美しい。私が、高校生の頃、カメラを手に土手に寝転んで、シャッターチャンスを狙っていた空は直ぐに撮れる。この、惑星に、既に降りたって数十年。これまでに、3α星人は、ダークマターの制御に成功した。従って、膨張も収縮もしない宇宙のコントロールが可能となった。信じられない程の科学技術力。20世紀の宇宙物理学者フレッド・ホイルの全否定された定常宇宙論を実現した訳である。彼等は、私に、この惑星への定住を許可してくれた。これまでの功績が評価された結果である。私は、この美しい惑星、宇宙の境界線の辺縁でなすべきことはなした。全宇宙的なカタストロフは排除できた、と確信した。全てが私の功績ではないのは当然としても、一助には貢献した。これ以上、何を望む事があろうか。もう、十分。不死化テクノロジーは、停止可能である、遺伝子コドンの一部を操作するだけのこと。私は、停止操作を行った。もういいじゃない。永遠の命なんて、もう、望まない。これは、自殺か?違う。間接自殺でも、慢性自殺でも無い。何故なら、自然の摂理に反して、長く生きてきたのだから。責めて、自然に消えたい。この美しい宇宙を見ながら、元来、抵抗的な私が貫いた、抵抗の意志と共に、懐かしい地球の、細やかなる抵抗の歴史を持つアイリッシュ・ウイスキーを呑みながら消えてゆく、それで十分。大宇宙に対峙する人間存在も、貫き通し此処に居る。
眺めて見る、この宇宙の何と美しいことか、ここで消えて逝くなら本望だ。もうすぐ、私は消滅する、宇宙よありがとう、私の意識はもうすぐ、文章も書けなくなる、最期にありがとう、私を育んでくれた、この世界・宇宙よ。