ジョー!ジョー!とっつぁんが、俺を呼んでるぜ、とっつぁんよ、どうしたんだ?泣いてるじゃないか? 俺は、俺はベンチに座っている。ホセのパンチを受けたんだったかな?コークスクリューパンチだったかな? まぁ、いーさ。勝負の世界はそーゆーもんさね。で俺?真っ白い灰になりかけかな?今、思うぜ。俺は一人で生きて来た、親?んなものは俺は知らねぇ、気づけば一人だった。少年院に入る前も出てからも、ボクサーになってからも、俺は一人だった!と思っていた。でも、今は思うぜ、俺は一人じゃ無かった、とんでもない思い上がりだったぜ。とっつぁん、丹下段平もいたし、西もいた。泪橋の子ども達も、俺を応援してくれていた。今は西の嫁さんの、のりちゃん、俺を好きで居てくれたよな?すまない。それと、陽子、お前にだけは、このグローブを渡すぜ。血まみれですまねぇがよ。力石にはすまねぇ事をしちまったな、すまねぇ。力石よ、もうじき会えるような気がするぜ。何とか、瞼を上げると、ホセの野郎、髪の毛が、真っ白になってるじゃねぇか、みっともねぇぜ、頬も痩せこけ、それがチャンピオンの顔かよ、もっとピシーっとな!幸せな家庭もある、チャンピオンなんだからな! あ、何か意識が薄らいでゆく、頼むぜ、俺の墓は作らないでくれ、花も線香も備えものなんて、いらねぇ。俺は一人灰になって、そこらを自由に飛びまわりたいだけなのさ。 ただ、それだけ ・・・