ひとすじの道 特高警察 投獄

私は加藤恵子、高等師範女学校を卒業後、三重県のロウソクを造る土地の高等学校の教員として、赴任した。住いは、四畳半の長屋、長者の家とは大違い、でも、仕方ない、これが私の生きる道。日曜の朝、伊勢茶を飲みながら、ガリ版で教材を作っていた。すると、ノックも無しに、黒い山高帽、黒いロングコートの険しい顔の男が、三人、玄関に入っていた。何で御座いましょう? 貴様、加藤恵子だな?はい。貴様、主義者だな!主義者?分かりません、私は教師で、同時に、平等な日本を実現したいと活動はしておりますが?矢張り、主義者と自ら吐いたな。おい!二人に命じた、土足で畳の部屋に上がり、私の両手に手錠をかけた。何故、何故でございましょうか?私が何を?悪い事したのですか?そうだ!陛下の統率されたる、大日本帝国の発展に反するものである! 私は投獄された。政治犯としての、待遇、一般の犯罪者とは違い、広い部屋、良い食事。しかし、尋問、拷問の毎日。もう、分からない!私が何を悪い事をしたのか、何度問われても分からない。人が人として平等に生きていく、それを目指す事の何処が悪いのか、そして、女性も人間、同じく人として生きていくべき、その何処が悪いのかしら。 責めは続く、黙れ!女!女の分際で、主義者の分際で!殴られ蹴られ棒で小突かれ!疲れた、疲れ果てた日々の連続でした。